増益

増収増益の鉄人:12
伊那食品工業 塚越寛

伊那食品工業は南アルプスのふもとにある寒天メーカー。設立 1958年。資本金 9,680万円。従業員数 352名。売上高144億円(2004年実績)

塚堀寛

塚越寛
1937年長野県生。伊那北高校中退。83年代表取締役社長に就任。2005年会長。

寒天メーカー、伊那食品工業(伊那市)は、信州の農家が副業として細々と作ってきた寒天の用途拡大と工業化を進め、業務用で国内シェア80%をもつ。47期増収増益の奇跡を続ける不思議な会社だ。でも、知れば知るほど傾聴に値する会社だと分かってきました。最終回は、その創業者、塚越寛会長です。

実践する経営理念

私(塚越会長)の会社の経営理念は「いい会社をつくりましょう」です。しかし、この抽象的とも思える経営理念を会社の社員全員が実践しています。

私は21歳(昭和33年)のとき、地元の材木会社で一社員として働いていたんですが、そこの社長が、系列会社の伊那食品工業の経営が思わしくないからなんとかしろと「社長代行」という妙な肩書きで私を送り込んだんです。この会社、今の伊那食品工業です。私は再建の経験から、いっしょに力を合わせてくれた社員のために何ができるのかを、強く感じました。そしてこの気持ちが、今の社是「いい会社をつくりましょう」につながります。私達が目指す「いい会社」とは、単に経営上の数字が良いというだけでなく、社員及び家族はもちろんのこと、会社をとりまく総ての人々が、「いい会社だね」と言ってくださるような会社のことです。

私の会社は売上目標、利益目標、営業マンのノルマがありません!! でも、社員はよく働きます。伊那食品工業の社員に聞くと、「当社では、社員同士ファミリー」という意識で働いています(「伊那食ファミリー」という社内用語もあります!)。何かあったら社員同士お互いに助け合う企業風土が当社の自慢です。社員同士のコミュニケーションが活発で、全社員での社員旅行を35年以上前から海外・国内を交互に行なっています。」。

私は、やる気のある社員とない社員では、生産性は倍違う。どうやって全員のやる気を引き出すかが経営の重要なテーマと感じます。その一つの手段として会社があげた利益の一部を還元しようと、全社員を連れての海外旅行を1973年から導入しました。また、98年からは経常利益の伸び率が前の期より5%を超えた場合、その3分の1を賞与として全従業員に分配しています。会社を経営している意識を全社員が持ち、自発的に働くようにする狙いです。

私の会社では、パートを使い利益を出すことを狙わないで、正社員をふやすことを考えています。そういうふうに思って毎年20数名を採用して教育をしております。結婚で退社していく女性社員以外、会社がつまらなくて辞めていく社員は、私の自慢ですが、ほとんどいません。全社員の中で会社が嫌で辞めたものはおりません。

確実な成長「年輪経営」

私は「年輪経営」といっておりますが、木というのはそこで植えられれば必ず毎年伸びます。今年は寒かったからといって年輪が重ならなかった年はありません。それなりに成長の度合いは少なくなっても、必ず毎年年輪を重ねていき、それなりに成長をつづける。これが自然体であります。自然の摂理というものは、そのように厳しいもので、人間も自然界の一生物であるならば、その人間の営みもまた、限りなく自然に近いものであっていいと私は勝手に思っております。であるならば人間も自然界の一生物であるならば人間の営みの会社経営も環境が厳しい、つまり景気がどうのこうのといっても必ず一定の成長をするべきである。とういふうに自分に言い聞かせているわけですね。

したがって当社が自然体経営をするならば景気がどうであろうとも自分たちの努力で必ず何かしらの実績をつけて、毎日を上回る、これが自然体だということで、その末上がりの経営と年輪経営とを重なり合わせて、社員に教えてきたわけであります。

会社にとって最も重要なのが「永続」することです。潰れてしまっては元も子もない。私の座右の銘に、江戸時代の農政家・二宮尊徳の「遠きをはかる者は富み、近くをはかる者は貧す」という言葉がありますが、そういう長期的な展望が「いい会社づくり」には不可欠です。目先の利益だけを考え、短期的に高い売上高を追い求めて高収益を上げても、長続きしなければいい会社とは言えません。永続するためにゆるやかな成長は不可欠ですが、最低必要な成長でいいと私は考えるようになったんです。

急成長はダウンを伴う。末広がりのゆるやかな成長を理想としています。

昭和33年の設立以来、連続増収を続けてきましたが、これを維持できているのは、無理をせず、ゆるやかに成長してきたからだと思います。急成長しようとすると、どうしても無理な投資をして、それを回収するために、大量に人を採用して、必死になって売上高を伸ばそうとする。けれど、業績が悪くなると一転、リストラをして人件費を削ろうとする経営者が多い。

会社の身の丈に見合ったゆるやかな成長を続けていけば、社員も取引先もみなハッピーで、リストラしたり、仕入価格を叩くといった無理をしなくてすむわけです。

私は、「無理な成長を追わない、人間尊重経営、成長の種蒔きを怠らない」を実践し続けています。

環境整備・掃除

「自分たちの職場は自分たちの手で」という考えのもと、約3万坪の敷地(かんてんぱぱガーデン)を、全員で毎朝掃除し、美しい環境を保っていることも自慢の一つです。朝の掃除もその表れかなあと嬉しく思うのですが、私ども8時20分が始業なんですね、けれども平均7時50分には全員会社に来ております。来た順番にですね、ほうきを持つ人、カマを持つ人、色々おりますが、3万坪の敷地をそれぞれが掃除をするという仕組みになっております。仕組みといっても自然にそういうふうになったわけであります。嫌々やっている人は一人もいません。興味のある方は一度7時30分頃きて掃除をする光景を見てください。本当に私が見てもいいなあと思うわけであります。社員が一生懸命やっております。なかなか世間では出来ないといわれておりますが、どうして私はできないのかなあと思いますが、とにかく当社ではそういうふうにやっております。掃除と人間の知恵との関係について、私はいつも思うんですけれども、どうもですね、掃除というのは人間の能力というものをある面で伸ばしてくれるような気がします。

清掃する社員

清掃する社員※写真はDO IT(2005.8号)より

掃除をさせることによっていろんな知恵が身についてくるような気がします。掃除の効用は私の専門外でありますけれども、いっぱいありまして、かつて私どもがアプローチをしていた会社があるんですね。営業の連中が一生懸命アプローチをしていた会社があって、それはある意味間違った老舗なんですけれども、老舗っていうものは古い材料を使って、古い製法でやっていることが老舗だと思って勘違いをしている方がたまにおりますが、私どものような、すばらしい寒天を売り込みに行っても採用してくれないっていうようなケースがあったんです。たまたまそこの社長さんが団体で私どもの会社に来ることがあったんです。で社員の態度や掃除を見て、帰ってすぐ電話が来て、取引をしてくれって言われるようなことがありました。物言わぬ営業マンと言うか、うちの社員の掃除は意外な効用があるんだなあと思いました。

要するにこれは企業の理念が何なのか、何を考えている会社なんだということをなんとなく形として表している結果なんですね。

用途開発 生き残りの秘訣!

寒天は、私がこの会社に入った当時は、冬期間の農家の副業としての生産が大半で、天候によって生産量が大きく左右される商品でした。典型的な相場商品だったんです

大手の食品メーカーに寒天を原料としてもらうためには、品質と価格、供給の3つの安定が不可欠ですが、相場商品であることからどんどん他の原料に代替されてしまい、寒天市場は狭まる一方でした。

そこで、このままでは、業界も当社も信用を失ってしまうというので、相場をなくしてやろうと考え世界中を飛び回って原料を探して歩きました。オイルショックのときの儲けをすべて投資して倉庫をつくり、原料を備蓄しました。同時に生産設備も拡大して、もし寒天が取引市場で品薄になって相場が上がってきたら、備蓄品を放出して相場を下げる、反対に相場が下がってきたら、当社で買い上げるという態勢を整えました。

こうして相場商品でなくなった寒天ですが、シェアが高くなるともう会社の成長はありません。

国内流通量が年間2000トンで安定的に推移する寒天市場で、伊那食品のシェアは8割まで高まりました。かつては和菓子などに限られて斜陽と見られた寒天の用途を自ら開拓、提案してきた成果です。

そこで、競争相手が多いところでは価格競争に巻き込まれてしまいますが、新しく用途開発したところは、同業他社が追いつくまでは全部うちのシェアですから収益性も高い。中小企業の生きる道は、開発型企業になることだと、従業員の1割以上を開発要員にあてています。

製品開発の会議

製品開発の会議

この研究開発部門が、様々な種類の寒天や用途の開発に努めてまいりました。その成果がウルトラ寒天や即溶性寒天などの特許製品や、一般家庭向けの「かんてんぱぱ」製品とし現れています。

近年では、化粧品や医薬の分野にまでも寒天の用途が広がり、バイオテクノロジーの最先端分野のDNA鑑定などにも使われています。

また、寒天とその他の天然ゲル化剤との組み合わせにより、さらに可能性は広がります。当社の工場では、寒天の優れた物性を活かしながら、他の天然物と混合させて新たな物性をもたせた様々な寒天製剤を生産しています。研究開発こそが安定成長の源です。

清潔な藤沢工場

清潔な藤沢工場(長野県)

【梶間の一言】

社是「いい会社をつくりましょう」を実践する会社。

社員は「家族」であり、皆で協力して「幸せ」を目指そう、働く人や地域の人々に心から「いい会社だね」と言われる会社になろう、それが伊那食品工業が目指す経営だ。お客様、社員、仕入先を大切にする大近江商人の「三方よし」経営を実践する。

寒天と言う限られた業界だか、用途を開発し増収を続ける。急成長・株式公開を目標とするベンチャー企業に警鐘をならす、すぐれた会社である。

今回、気づいたこと

  1. 社是の徹底「いい会社をつくりましょう!」
  2. ノルマなし、リストラなし、安心感と社員還元
  3. 確実な経営→自然体の年輪経営
  4. 環境整備・清掃→物言わぬ営業マン
  5. 社員の一割が開発→特に用途開発
  6. 中小企業の生き残りは開発型企業であること

<参考資料>
※塚越会長講演録(2005.7.23日本青年会議所主催)
※伊那食品工業ホームページ
※キーパーソンインタビュー(環境goo)